OFFICIAL INTERVIEW

上白石萌音の歌を聴いたり、ライヴで歌っている姿を見ると、いつも「本当に歌が好きなんだなあ」と思ってしまう。こんなに楽しそうに、愛おしそうに歌を歌うシンガー、最近はあまり見かけない。彼女は女優。だからその歌への愛も“演技”なのではないか思ってしまう事もあったが、あの“好きというあふれる想い”を演じる事などできない。

映画『舞妓はレディ』(2014年)で当時16歳の彼女のその歌唱力に驚かされ、2015年のミュージカル『赤毛のアン』では、さらに力強さと“説得力”を増した歌と、圧倒的な表現力で感動を与えてくれ、聴き手にしっかり、きちんと“届ける”という、歌い手にとって最も大切な武器を確かに手に入れた。彼女の“歌愛”はさらに大きくなって、もっと歌いたい、歌を聴いて欲しいという思いから、この年の秋から都内のライヴハウスで、シンガーとしての活動をスタートさせた。そして2016年10月には名作映画の主題歌・挿入歌を集めたカバーミニアルバム『chouchou』で、歌手デビューを果たした。

『chouchou』では「366 日」 (HY)、「Woman “Wの悲劇“より」(薬師丸ひろ子)、そして『舞妓はレディ』のオーディションで歌い「自分の人生を変えた曲」という「On My Own」 (映画「レ・ミゼラブル」劇中歌)のスタジオライヴ、大ヒット映画『君の名は。』の主題歌「なんでもないや(movie ver.)」(RADWIMPS)他、名曲達を見事に自分のものにし、歌い切っている。彼女には大切にしている信念がある。それは「歌うように演じて、演じるように歌いたい」という事。そこには映画、ミュージカル、音楽、ドラマなど、その世界は違えど、思いを伝える事、自分を表現する事、そして誰かと気持ちを共有するという部分では、同じなんだという強い思いが存在している。そんな、「演じるように歌う」上白石萌音の魅力をさらに感じる事ができるのが、1stオリジナルアルバム『and...』だ。

彼女の印象は、純朴な容貌、柔らかな空気を放ち、清潔感溢れ、でも凛とした強さも湛えている――全くもって個人的な感想だが、そう感じている人は多いと思う。そしてやはり透明感のある、力強くて伸びのある声――これがパブリックイメージに近いのではないかと思うが、そんな彼女を感じ、彼女に向け、縁があって何らかの形で仕事を通じて繋がっている様々なアーティストが楽曲を提供し、でき上がったのが『and...』だ。バラエティに富んだ、という安直な言葉では表現できない、色彩豊かな8曲が揃った。8人の主人公を彼女が演じている。「自分というよりはその曲に合う声を探していきました。それぞれの曲で声を変えたいというか、一曲一曲歌っている一人称を違う人にして、それぞれ主人公を自分の中で作って」レコーディングに臨んだ。それは決してテクニックではなく「モードというかスイッチというか、テクニックでは私はその部分はまだまだなので、感情というか。イマジネーションだけでそこに連れて行かれる感じで。それぞれの曲の主人公が着ている服から、身長、性格も自分の中で構築して、役作りのような感覚で臨みました。そうしないと歌えない曲ばっかりだったので」と本人が言うように、良曲が、でも一筋縄ではいかない曲達が、彼女に贈られた。

「告白」 

オープニングを飾る「告白」(『めざましテレビ アクア』(フジテレビ系)テーマソング)は、彼女が尊敬してやまない秦 基博が作詞・作曲・プロデュースを手がけた、女性の、言葉にできない想いを言葉にした、儚くせつないミディアムテンポのラブソング。「秦さんからは、前半は吐息も含めて語りかけるように、後半は少し芯の強さが欲しいです、と細かい丁寧なアドバイスをいただきました。秦さんが常に見てくださっている気がして、レコーディングの時もすごく安心感がありました」。アレンジは秦基博の作品も手掛けている皆川真人。温かで柔らかな音で彼女の声に寄り添っている。ドラムは数々の大物アーティストのレコーディングやライヴでプレイしている、名手・河村“カースケ”智康。彼女はそのドラムの音に心臓の鼓動と同じ感覚を感じていたという。「楽器ではなくて自分の体の中に入っている音のような気がして。人を思っているときのドキドキ感が、ドラムの音になっているようでした」。アコースティックギターは秦自らが弾いている。「秦さんがアコギ弾いてくださっているのをレコーディングの最終段階まで知らなくて、もう少し早く言ってくれませんかとスタッフに抗議しました(笑)」と、憧れの秦のギターの音に包まれて歌っている事を、最後まで知らされずにレコーディングを終えてしまった裏話を教えてくれた。

「Sunny」

M2の「Sunny」は、イントロのガットギターが印象的な、陽気で爽やかなカントリー調の作品で、作詞は本人が手がけ、作曲とアレンジは、数々のアーティストに楽曲を提供している、Superflyのメンバーとしても活躍した多保孝一と、注目のクリエイター集団・TOKYO RECORDINGSの小島裕規が手がけている。青空が広がる大平原の、果てしなく続く道を走る車の中で聴いているような、夏らしい一曲。「詞は8曲の中で、一番素に近い自分が描かれているかもしれません。以前、メキシコに住んでいたこともあって、私の根底に流れるラテン気質がこの曲には出ていると思います(笑)。今までどちらかというと、切ない、繊細な思いを歌わせていただく事が多かったのですが、初めてレコーディングでニコニコしながら楽しい!って歌った曲です」。美しい日本語をきちんと届けるイメージがある彼女だが、この作品では「多保さんの仮歌が英語で、その雰囲気がすごく良かったので英語と日本語をミックスしてみました」と、曲の雰囲気を考えて敢えて英詞と日本語詞で構成した。このアルバムで彼女は3曲、歌詞を書いているが、この「Sunny」は少し雰囲気が違う。「色々と悩んで、悶々としている自分に向けて書いた歌詞です。自分を含め、落ち込んでいる人に向けて書いてみました」というように、誰の心にも太陽はいつも存在する、だから元気出していこうと背中を押してくれている。

「パズル」

作詞藤林聖子×作曲世武裕子という豪華なタッグが実現したM3「パズル」は、壮大なロックナンバー。世武が「普段自分では歌えないような高低差の激しいメロディを、表現力豊かに歌い上げてくれています」と言っているように、難しい楽曲にトライし、激しいロックのリズムに乗り、藤林が書く言葉が持つ、独特のリズムもしっかり一度自分中に取り込み、空気を切り裂くように放っている。どこかヒリヒリするような感覚は、アルバムの中でも圧倒体な存在感だ。「この曲が一番難しかったです。ブレスはないし、メロディも起伏が激しくて、音域も広いので、ライヴで歌うときにどうしようって思いました(笑)。いい意味で高いハードルをいただいて、レコーディングが終わった後はスカッとしました(笑)。藤林さんの詞は、すごく主観的でもあるのに、どこか俯瞰しているような歌詞で。話しているようでもあるし、文学的でもあるし、不思議な世界観でした。アカデミックな感じもするので、この詞にあるような気持ちになるのに時間がかかりました。でも一度体に入ると、自分から出てきた言葉のようになっていて、すごい歌詞だなと思いました」と、この曲を歌った事で、シンガーとしてまた成長した事を実感したようだ。ミュージシャンの顔ぶれにも注目したい。ギターは澤竜次(黒猫チェルシー)、ベース村田シゲ(口ロロ)、ドラム恒岡章(Hi-STRNDARD)、そしてピアノは世武自身と、個性的なミュージシャンによって、このひと癖もふた癖もある楽曲が、極上のグルーヴを纏い、一度聴くと忘れられないロックナンバーに仕上がっていて、テレビアニメ『境界のRINNE』(NHK Eテレ)第3シリーズのエンディングテーマに起用され、注目を集めている。

「きみに」

M4「きみに」は上白石が初めて歌詞を手がけた記念すべき作品で、本人にとっても忘れられない楽曲の作曲を手がけたのは、プライベートでも親交があるシンガー・ソングラーターの藤原さくら。藤原にとっても他のアーティストへ初の楽曲提供になる。「さくらちゃんの曲が大好きなので、そこに一歩踏み入れられたような感じがして嬉しかったです。歌詞をつけるのが難しくて、苦しんでいたのですが、さくらちゃんが曲を送ってくれたときに、「ありがとう」って連絡したら、「萌音ちゃんのこと思ったら曲がいっぱいできちゃった」って言ってくれたんです。その時、さくらちゃんが私のために曲を作ってくれたんだから、私はそのお返事を書こうって思って、さくらちゃんに向けた詞にしたら、言葉がたくさん出てきました。何も飾らずストレートに書きました」という言葉通り、優しい恋の風景が描かれた、“ひだまり”という言葉に象徴される、二人に共通する「ふんわり」という言葉がぴったりの、とびきりポップな作品だ。アレンジはプロデューサー、ギタリストとしてChara、秦基博、藤原さくら、さかいゆう、あいみょんなど数多くのアーティストを手がけ、サポートする関口シンゴ。バンジョーの音が全体に温かみを与え、上白石と藤原の二人の声が重なり、絶妙のコントラストを描くコーラスも聴きどころだ。

「カセットテープ」

頭のひと言と、キャッチーなメロディで、いきなり心を鷲掴みにされてしまうポップソング、M5「カセットテープ」は、HYのメロディメーカー名嘉俊が楽曲提供している。彼女の連続ドラマ初主演作『ホクサイと飯さえあれば』の主題歌をHYが担当したという縁で、今回のタッグが実現した。名嘉はこの曲について「結婚披露宴で萌音ちゃんの声が響いたら絶対素敵だ」が今回のテーマでした。スタートしたらゴールがあるわけで、繋がったまんま一緒にまわっていくカセットテープ。ラブリーノイジーな2人の音を奏でていって欲しいという想いで」と、彼女のハッピーな声を聴いて、多くの人に幸せを感じて欲しいという思いを込めた。「カセットテープはおじいちゃん家にたくさんあったのを覚えていて、レトロなイメージはありますが、この曲はデジタルの時代にはない温かみを全体に感じる事ができて。そういう温もりのあるものが大好きで、メールよりも手紙を書くの好きです」と本人が言うように、ウーリッツァーの温かみのある音と、ホーンセクションが放つ音とが相まって、抜群の肌触りのサウンドになっている。そこにどこまでも優しくて、ハッピーな空気を感じさせてくれる彼女の声が乗ってくる。「色々な歌い方を試しましたが、鼻歌というか大好きな人が隣にいて、口ずさんでいるような歌い方にしたいなと思って、あえて裏声で、一番高いところを出してみたり、ちょっと息を入れてみたりしてみました」。

「String」

M6「String」はある意味衝撃的な1曲だ。疾走感と重厚感のあるストリングスが、最初からまるで“唸りを上げ”襲い掛かってくるようだ。そして他に鳴っている楽器はドラムのみ。ドラムは、EXILE ATSUSHIや久保田利伸、AIなど数多くのミュージシャンから引っ張りだこの人気ドラマー・FUYU。タイトなリズムと圧巻のテクニックから生まれる独特のグルーヴと、強くて繊細な弦の音が生み出すグルーヴとが相まって、何とも言えないカッコ良さと心地よさがある。詞は上白石本人で、自身が手がけた他の2曲とは目線も感覚も全く違う。「昨年末に出させていただいた「COUNTDOWN JAPAN」で、ストリングスの皆さんの演奏で「前前前世」を歌った時に、すごく気持ち良かったんです。ドラムとストリングスだけで、切れない糸というか、そんな張り詰めた感じがありました。詞は、オリンピック出場した中学時代の先輩がいて、その先輩の走りを見た時の感じを込めました。スタートする前に靴紐も締め直す感じとか、全部ひっくるめて「String」にしました。弦が駆け抜けるような曲なので、歌詞は難しくて、演奏に引っ張られすぎたりもしましたが、かなりソフトにして、前を向いていく強さみたいなものを表現しました」。そして「歌い方も今までやった事がない歌い方です」と言うように、強さを前面に出した凛としたボーカルに引き付けられる。

「The Voice of Hope」

カバーアルバム『chouchou』で、ほとんどの曲のアレンジを担当した河野伸が、作曲・アレンジを手がけたM7「The Voice of Hope」は美しいストリングスが印象的な、ミュージカル曲のような仕上がり。この曲と対峙する事によって、またひとつ表現者としての姿勢を学ぶことができたという。「最初オーケストラの演奏が始まった時に、何が始まるんだろうっていう高揚感があって、自然と劇場の赤い幕が思い浮かんで。この感じでいこうと思いました。最初に目指すべきものは浮かんではいたのですが、場面、カラーがどんどん変わる曲なので、その感情の起伏、声色の変化のようなものがすごく難しくて。なので、最初は結構作り込んでというか、考えながら歌っていたのですが、うまくいかなくて…。それで一度作り込んだものを全て捨てて、無の状態で歌ったテイクが収録されています。全部の力を抜いて、今までの考えを全部取り払って、頭の中を空っぽにして、劇場は劇場でも、小さな劇場で歌っているような、少女のつぶやきのような感じで。言葉にならない声を、ポツリポツリと歌っている感じで、最後にはパッと夜空が明けるような爽快感がありました」。役者の現場でも、自分で準備していたものに対して、監督に「違う」と言われればまた一からやり直さなければいけないが、彼女はそれをレコーディングスタジオでチャレンジした。「それまで構築してきたものをなくすのはもったいないという気持ちも、どこかにありました。でも邪念がいかに邪魔かという事を学びました」。シンガーとして成長をしていく彼女によって、これからこの作品がどのように変わっていくのかも楽しみだ。

「ストーリーボード」

「自分で歌っているのに何度も聴きたくなる」――そう本人が言う、アルバムのラストを飾るM78「ストーリーボード」は、andropの内澤宗仁が作詞・曲を手がけている、胸に迫るラブソング。上白石が主役を務めた、オムニバス形式ショートムービー『空色物語』(三木孝浩監督)の中の「ニケとかたつむり」で、主題歌を手掛けたのが内澤だ。彼女は、役者として、そして一人の女性としての、自分の気持ちを描いてくれているという内澤の歌詞に感動したという。「“僕は主人公でもなくて 2番手の脇役でもない”という歌詞はデモの時からずっと変わっていなくて。このフレーズが流れてきた時に、私のことだって思ったんです。私は、田舎で目立たないようにして生きていくのが、一番心地いい生き方だと思っていました。だから主人公だと思ったこともないし、私の歌だって、おこがましくも思ってしまって」。瞬時に映像が浮かんでくる見事な歌詞とメロディで、まるで一本の映画を観ているような、深さと鮮やかさを感じる。“忘れられないよ 忘れたくないよ”という一節は、胸が締め付けられる切なさを感じる。それは彼女の歌が引き寄せる切なさでもある。「情感がめちゃくちゃに揺さぶられるというか、歌っていて泣きそうになります。出会えたことに感謝するという明るい内容なのに、でも切なくて」。そんな彼女のボーカルを、聴き手に真っすぐ届ける島田昌典の極上のアレンジも素晴らしく、全てがひとつなって名曲が完成した。

歌を、一曲一曲丁寧にまさに“紡いでいる”感じが彼女の歌からは伝わってくる。それは縁を大切にし、自分の事を思い、想像し楽曲を手がけてくれたアーティストへの感謝の気持ちが出ているからだ。「どの曲も本当に大好きで、宝物です。自分にとってかけがえのない1枚ができあがりました。今までご縁のあった方々が、この一枚のために集結してくださったのも、涙が出るくらい嬉しいことだったし、それがファーストオリジナルアルバムという幸せもかみしめています。この8曲は、死ぬまで歌っていきたいです」。このアルバムのジャケットはMONE and…という表記になっている。誰かと繋がってできたアルバムという思いを、きちんとジャケットにも残した。「私の中には絶対にないような引き出しを開けてくださったり、逆に私が思っていることを代弁してくださったりとか、人と人の繋がりがどれだけありがたいかを改めて感じました。そしてこれを聴いてくださった方と、その音楽、作った私達とを深く繋げるものであったらいいなと思うし、聴いてくださった方同士の間でも、何か生まれたらいいなっていう意味をタイトルとジャケットに込めました」。

その真っ直ぐな瞳の奥に見える光からは、歌う事が楽しいという気持ちだけではなく、歌い続けること、想いを伝え続けていくという決意を感じる。このアルバムはその意思表明の証でもあり、上白石萌音というシンガーの、無限の可能性を感じさせてくれる地図の一部でもある。シンガーとしての旅は始まったばかり。作品を出し、ライヴを重ね、そうして彼女が歩いた道が大きな地図になり、いつか完成する。真白い地図に、早速『and...』という大きな一歩を色濃く残した。

text 田中久勝

  • オリジナルアルバム

    「and... 」

    01.告白
    02.Sunny
    03.パズル
    04.きみに
    05.カセットテープ
    06.String
    07.The Voice of Hope
    08.ストーリーボード

    PCCA-04544 / ¥2,593 + 税